2025.05.21
Wednesday
【医師監修】学校検診の視力検査で “B・C・D” だったら?
〜近視進行を正しく止める対処法と受診の目安〜
「まだよく見えるから大丈夫」は危険信号
学校から届いた健康診断の結果用紙。
お子さんの視力欄に 「B」「C」「D」 が並んでいても、「黒板は見えているみたいだし …」とそのままにしてしまうご家庭は少なくありません。しかし、近視は放置すると徐々に進行し、急に視力が落ちたように感じてしまうことがあります。近視は進行してしまうとなおすことは難しいので見えているうちからの予防が大切です。また近視が進行すると網膜剥離や緑内障など失明リスクの高い病気に結びつく可能性が跳ね上がります。
2025年春には日本で初めて近視進行抑制を目的に承認された低濃度アトロピン点眼薬「リジュセア®ミニ点眼液0.025%」が発売します。治療の選択肢が広がった今こそ、「B・C・D判定」を受けた時点で正しい対策を始めましょう。
この記事では
1. 判定A〜Dの正しい意味
2. 近視が進むと起こる5つのリスク
3. 家庭でできる近視対策
4. 眼科でできる近視対策
5. 眼科受診のタイミング
を眼科専門医がわかりやすく解説します。
目次
1. 判定 “A・B・C・D” は何を意味する?
判定基準と視力数値の目安
判定 視力(裸眼):コメント
A 1.0 以上:問題なし
B 0.7–0.9:教室後方から黒板が読みにくいことも
C 0.3–0.6:日常生活で支障が出始めるレベル
D 0.2 未満:眼鏡・コンタクト必須レベル
B 未満は「経過観察」より「要相談」
小学生の近視は 成長に合わせて眼軸長(眼球の長さ)が伸びる ことで進行します。B判定(0.7〜0.9)の時点で対策を始めると、将来の強度近視を 約30〜60 % 抑えられるという報告もあります。
よくある誤解:黒板が見えれば安心?
黒板は読めても、細かいプリントやデジタル教材で「目を細める」「顔を近づける」癖がつくと近視が加速します。早期受診で視力だけでなく 眼軸長 もチェックすることが重要です。
2. 近視が進むと起こる5つのリスク
①網膜剥離 ― 眼軸が伸びて網膜が薄く引き延ばされ、穴(網膜裂孔)が生じやすい。
②黄斑変性(近視性脈絡膜新生血管) ― 視力の要、黄斑部が変性し視野中心がゆがむ。
③緑内障 ― 強度近視眼は視神経が脆く、正常眼圧でもダメージが進行しやすい。
④白内障の早期発症 ― 高学年〜20 代で手術適応になる例も。
⑤生活の質(QOL:quality of life)低下 ― 厚いレンズ、スポーツ制限、将来の職業選択への影響。
3. 家庭でできる近視対策
まずは日々の生活習慣を見直すことから始めましょう。
・1日2時間を目安に屋外で遊ぶ
太陽の光には、目の成長にブレーキをかける働きがあるといわれています。公園での遊びだけでなく、ベランダや庭で過ごす時間も効果があります。
・20-20-20ルール
長時間近くを見続けることで近視進行を引き起こしてしまいます。そこで「20-20-20ルール」といって、近くを20分見たら、20秒間は遠く(20フィート=約6m)を見て目を休ませましょう。こうすることで近視のリスクを低下させられます。また、本やタブレットを見るときは顔を30cm以上離すことも大切です。
その他としてはお子さまの机やイスの高さ、照明も見直してみてください。暗いところでの読書や、体に合わない高さの机では、知らないうちに顔が近づき、目に負担がかかります。
さらに、スマホやゲームの時間は、1日2時間以内にするのが理想的です。特に、休日に長時間まとめて使うのは、近視が進む原因になりやすいので注意しましょう。
4. 眼科でできる近視対策
ご家庭でのケアに加えて、眼科では専門的なサポートを受けることができます。
・低濃度アトロピン点眼
今回2025年春に発売されるリジュセア®ミニ点眼液 0.025%は「低濃度アトロピン」という成分を使った点眼薬で、1日1回、夜寝る前にさすだけで、近視の進行をゆるやかにする効果があります。近視は基本的に眼軸長が長くなることで進んでいきます。アトロピンには眼軸が伸びるのを抑制する効果があります。濃度を高くすれば近視抑制効果が強まるものの、まぶしさやピントのぼけといった副作用が強くなりますので、効果と副作用のバランスが最も良いと考えられる0.025%の製品が採用されました。
・多焦点ソフトコンタクトレンズ
日本には近視進行抑制のためのソフトコンタクトレンズは現在ありませんが、老眼用として発売されている1day pure EDOFという多焦点ソフトコンタクトレンズには近視進行抑制があり、海外では近視予防のための製品として販売されています。
・オルソケラトロジー
夜眠っている間にコンタクトをつけることで角膜の形が変形し、朝コンタクトをはずしてもよく見える状態が1日続くという治療法です。通常のコンタクトと違って日中は裸眼で過ごすことができます。近視進行を抑える効果も高く、日本で受けられる治療の中でも特に有効とされています。また、オルソケラトロジーに低濃度アトロピン点眼を併用することでさらに高い予防効果が得られると言われています。
5. 眼科受診のタイミング
視力検査の判定がB・C・Dだった場合、「いつ眼科を受診すべきか?」と迷われる方も多いと思います。目安としては以下のように考えるとよいでしょう。
・判定がB(0.7~0.9)だった場合
黒板が見えていても、少しずつ近視が進行しているサインかもしれません。この段階で眼科を受診し、眼軸長を測定することが大切です。半年に一度の経過観察が推奨されます。この時点でも近視進行を抑える治療を考慮します。
・判定がC(0.3~0.6)またはD(0.2未満)だった場合
すでに日常生活や学習に支障が出始めている可能性があります。早めに眼科を受診して、視力や屈折値の正確な測定、眼軸長のチェックを行いましょう。必要に応じて、近視進行を抑える治療を開始することが勧められます。
また、お子さんに「目を細める」「本やタブレットを顔の近くで見る」「テレビを斜めから見る」などの行動が見られる場合も、視力低下のサインかもしれませんので眼科を受診しましょう。
まとめ
近視は一度進行すると元には戻りません。進行する前に正しく対応すれば進行をゆるやかにすることができます。「まだ見えているから大丈夫」と油断せず、B・C・D判定が出た時点で、生活習慣の見直しと眼科受診を意識していただければと思います。
ご家庭でのケアと眼科での専門的なサポートを組み合わせて、お子さんの未来の視力を一緒に守っていきましょう。
【監修者情報】
⽒名: 山口 雄大
所属: サークル帝塚山眼科 院長
専⾨: 角膜感染症、神経眼科
日本眼科学会認定眼科専門医。
和歌山県立医科大学、済生会有田病院にて勤務。
2023年7月、サークル帝塚山眼科を開設し、院長として診療を行う。
眼科医のための情報サイト「眼科医ぐちょぽいのオンライン勉強会」を運営。
日本眼科学会、日本眼科医会、眼感染症学会、神経眼科学会に所属。